今にして思えば、別の意志も働いていたのだろう。
ここらで自分を変えたい、イヤなことから目をそらす弱気
な性格に打ち勝ちたいという強い意志が。

その思いは、1年後、オレが2号店の店長に抜擢される
という形で報われる。複数いた他の店員を押しのけ、オーナー直々に「オマエに任す」
と言い渡された。給料はさほど上がらなかったが、認めら
れたよろこびは想像以上に大きかった。
が、本当の幸運が訪れたのは、それからしばらく後のことだ。
「村上、オレ近々耳の手術するからさ、もう店にはこれないんだ」
ある日、店にやってきたオーナーが突然、ワケのわからぬことを言い出した。手術?
「うん。しかも下手したらしゃべれなくなるかもしれないし、もう電話には出れんぞ。じゃあな」
以来、オーナーからはプッッリと音信が途絶えた。いったい、なぜ?何があったんだ?
間もなく、その謎はオーナーの奥さんが来店したことで、すべて解けた。
オーナーは、九州にある別の店舗で未成年者の女の子を使っていたカドで、バクられていたのだ。万が一のため、三重の本店、2号店もすぐ閉じることになるだろうと奥さんは言う。

その話を聞くうち、頭の中に一つの考えが浮かんできた。2号店を閉めるなら、オレが乗っ取ることはできないだろうか。奥さんが店舗の賃貸契約を解除した後に、オレの名義で新たに大家と契約を結べ
ば…。
せっかく女のコも揃っており、客入りもいい。潰してしまうにはあまりに惜しい
《箱》ではないか。
その目論見は吉と出た。行政書士を雇って登記簿を変えさせ、営業許可も取得。あっけなく、実にあっけなく、オレは生まれ変わったヘルス店『スーパーレディ』のオーナーになったのである。
むろん、1カ月後に釈放された前オーナーは、裏切りとも言える行為に怒り狂ったが、すったもんだの末、オレが300万を支払い、店の家具、設備、その他の備品を買い取るという形で丸く収まった。
300万なぞ、すぐ稼いでやる!
☆やることなすこと一袈目に出る人。壁にぶち当たっている人。弱い人。世の中には、オレのような人間がたくさんいることだろう。己の不甲斐なさにヘコんでしまいがちな気持ち、痛いほどよくわかる。
が、それでもオレは言いたい。
人生はままならない。しかし、だからこそ、身震いするほど面白いんだと。…カッコつけ過ぎか。
カテゴリ
タグ