カネはないけど、青森には帰りたくない。かといって、
生まれてくる子供のためここらでマジメに働こう

ホスト時代の客や親に頼るのはプライドが許さない。八方塞がりの状況下、あわやこれ
までかと思った矢先、友人がデリヘルの運転手の仕事を見つけてきた。
しかも、そこの社長、オレも雇ってくれるという。まだオープン間もなく、ちょうどスカウトを募集中だったらしい。よし、これで食っていける。
仕事の内容は単純だった。
名古屋駅周辺で、女性に「お仕事しませんか」と声をかけるだけ。一見、やってること
はキャッチと同じだが、相手を《客》ではなく《商品》と
見るスカウトの方が精神的にはかなりラクだ。
1年後の4月、オレは店に在籍中の1人の女性と結婚する。もともとこの店では、社長から、ハイレベルな女が辞めぬよう、ホスト仕込みの疑似恋愛術でつなぎ止めておく役目も仰せつかっていたのだが、なぜか彼女にだけはつい本気になった。
結婚を決めたとき、彼女のお腹には生命が宿っていた。しかし、事はうまく運ばない。デリヘル店が経営不振に陥り、給料未払いが数カ月間続くようになった。子供も生まれてくるというのに…。
まもなく、妻のアパートがある三重県に移り住んだ。ここらでいつちよ、地に足のついた職に就き、マジメに働こうと考えたのである。8日間で立て続けに2つのラインエ場からトンズラをかまし、結局、津市にある箱形へルス店で働くことになった。
皆さんは、笑うだろう。地に足のついた仕事云々といいながら、また風俗店かよと。
しかもど’せまた、長続きしないんだろうと。
自分も最初はそう思っていた。ムカつく先輩店員が、もっと早く掃除しろ、要領よく客を回せ、あんな口の利き方じゃ客を減らすだけだと、とにかく口うるさい。わがままな女の.たちを管理するのも
ストレス満点だ。今までなら、確かにオサラバしていてもおかしくないレベルである。
が、殊勝にも、オレはひたすら辛抱した。先輩に小言を言われれば平謝り、女の.にお使いを頼まれれば、笑顔でコンビニに走った。
なぜか。有り体に言えば、やはり子供のため、だったの
かもしれない。家族の生活が自分の背中に重くのしかかっていた。
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